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大分地方裁判所 平成5年(ワ)232号 判決

原告(反訴被告)

高倉護宏

ほか一名

被告(反訴原告)

辰本春記

ほか一名

主文

一  別紙目録記載の交通事故に基づく原告らの被告辰本春記に対する損害賠償債務は各自金一九〇万三九五一円を、被告辰本フジ子に対する損害賠償債務は各自金二四六万六〇七一円を越えて存在しないことを確認する。

二  原告らは、各自被告辰本春記に対し、一九〇万三九五一円及び内金一七五万三九五一円に対する平成三年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を、各自被告辰本フジ子に対し、二四六万六〇七一円及び内金二二六万六〇七一円に対する平成三年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告ら及び被告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用については、本訴・反訴を通じてこれを三分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  (本訴関係)

別紙目録記載の交通事故に基づく原告らの被告辰本春記に対する損害賠償債務は各自金一二五万四八一七円を、被告辰本フジ子に対する損害賠償債務は各自金一六一万六一九〇円を超えて存在しないことを確認する。

二  (反訴関係)

原告らは、各自被告辰本春記に対し、金二五七万二九九四円及び内金二三七万二九九四円に対する平成三年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を、各自被告辰本フジ子に対し金三六二万八六三〇円及び内金三三二万八六三〇円に対する平成三年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を各支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故に関し、加害車両の運転者及び所有者(運転者の使用者)が被害車両の運転者及び同乗者に対し請求の趣旨(本訴関係)記載のとおりの損害賠償債務の一部不存在確認を求め(本訴)、被害車両の運転者及び同乗者が加害車両の運転者、所有者に対して損害の賠償を求めた事件(反訴)である。

一  争いのない事実(本訴・反訴とも)

1  (交通事故の発生)原告高倉護宏(以下、「高倉」という。)と被告辰本春記、同辰本フジ子(以下、「春記」、「フジ子」という。)との間で、左記交通事故(以下、「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成三年六月二四日午前八時一〇分ころ

(二) 場所 大分県大分郡湯布院町大字川北一五八二番地の三先路上

(三) 加害車両 原告高倉運転の普通乗用自動車車(大分五七つ八八三四、原告大分トヨペツト株式会社(以下、「原告会社」という。)所有のもの)

(四) 被害車両 被告春記運転の普通乗用自動車(大分五七た一九一一)

(五) 態様等 被告春記が、被告フジ子を同乗し、被害車両を運転して前記日時に湯布院方面から玖珠方面に向け前記場所の湯布院高速インターチエンジ入口交差点を青色信号に従い直進中、同車に玖珠方面から湯布院高速インターチエンジ方面に向けやはり青色信号に従い右折進行しようとした原告高倉運転の加害車両が衝突した(ただし、事故の具体的な態様については争いがある。)。

(六) 傷害等 被告春記は本件事故により第三腰椎圧迫骨折、胸部打撲の傷害を負い、被告フジ子は、腹部打撲、復腔内出血、外傷性小腸破裂、外傷性腸間膜損傷の傷害を負つた。

2  (原告高倉の責任原因)

原告高倉は、加害車両を運転して本件事故現場を右折するに際し、前方注視及び徐行義務を怠つた上、早廻り右折をした過失(ただし、右早廻り右折の点については争いがある。)により被害車両に衝突し、被告らに傷害を負わせたものであり、民法七〇九条の不法行為責任を負う。

3  (原告会社の責任原因)

原告会社は、加害車両の所有者であるから、自賠法三条の責任を負い、かつ、原告高倉は、原告会社の従業員であり、本件事故は原告高倉の勤務中の事故であるから民法七一五条の責任を負う。

4  損害の填補

被告春記は原告側から治療費、胸椎装具料金分である金二〇一万七四三〇円の、被告フジ子は同じく治療費分である金二七九万六九六〇円の支払いを受けて各自の損害に充当した。

四  争点

原告らは、原告らの被告らに対する損害賠償債務は請求の趣旨(本訴関係)を超えることはないとして、被告らの損害額を争うとともに被告らの本件事故における過失割合は一〇パーセントを下回ることはないとして過失相殺を主張するのに対し、被告らは本件事故につき被告側の過失はない旨主張する。

第四争点に対する判断

一  損害額

1  被告春記の損害

(一) 治療費分が一九九万三一〇〇円、また被告春記の胸椎装具料分が二万四三三〇円(合計二〇一万七四三〇円)であることについては争いがない。

(二) 入院雑費(反訴請求額金九万八四〇〇円)

被告春記は本件事故により平成三年六月二五日から同年九月一四日までの八二日間大分中村病院に入院したところ、右八二日間分の入院雑費が九万八四〇〇円(一日一二〇〇円の割合)であることについては争いがない。

(三) 慰謝料(反訴請求額金一七〇万円)

被告春記は本件事故により、前記の傷害を負い大分中村病院に平成三年六月二五日から同年九月一四日までの八二日間入院し、同月一五日から平成四年一月二二日まで通院したことが認められる(甲第二号証の四、五、乙第一号証)。

原告らは、右慰謝料は一二〇万円が相当である旨主張するが、傷害の程度、治療期間等を総合考慮すると右慰謝料は、一五〇万円とするのが相当である。

(四) キヤンセル料(反訴請求額金二一万六〇〇〇円)

証拠(乙第三、一二号証)によれば、被告春記は、被告フジ子とともに、平成三年七月五日からの近畿日本ツーリスト主催のツアー(海外)旅行に参加する予定であり、同年三月一五日に金六万円を、同年五月二四日に金二九万三二五〇円を支払つたこと、しかし本件事故により両名とも右旅行に参加することが不可能となり、取消料として二一万六〇〇〇円を徴されたことを認めることができる。

原告らは、右損害は特別の事情によつて生じた損害であり、その事情を原告らが予見しうるものではなく、現に予見していなかつたものであるから、相当因果関係はない旨主張する。

しかしながら、事故被害者が旅行を予定していたことを特別な事情ということはできないし、ツアー旅行等が不可能となれば取消料を要する場合があることもまた同じなのであつて、右は相当因果関係内の損害であると考えられる。そしてその損害は右二一万六〇〇〇円とするのが相当である。

(五) 交通費(反訴請求額金二万六八〇〇円)

被告春記の通院治療のために交通費として少なくとも一万五三〇〇円を要したこと、本件事故当日の受診のための交通費としてJR及びタクシー代合計一二八〇円を要したことについてはいずれも争いがない。

また、証拠(乙第一九号証)によれば、本件事故に関する実況見分のために金二四八〇円、検察庁への出頭のために七七四〇円の交通費を要したことを認めることができる。

したがつて交通費としては二万六八〇〇円を損害額として認める。

(六) 物損等(反訴請求額金三三万一七九四円)

本件事故による被害車両の評価損が三〇万円であること、また牽引料として二万円を要したことについては、原告らにおいて認めるところである。

また証拠(乙第五号証、被告春記本人(第一回))によると、さらに本件事故に関し牽引料として一万一七九四円(手数料含)を要したことが認められる。

したがつて物損等としては三三万一七九四円が損害額である。

2  被告フジ子の損害

(一) 治療費分が二七九万六九六〇円であることについては争いがない。

(二) 入院雑費(反訴請求額金九万九六〇〇円)

被告フジ子は本件事故により平成三年六月二四日から同年九月一四日までの八三日間大分中村病院に入院したところ、右八三日間分の入院雑費が九万九六〇〇円(一日一二〇〇円)であることについては争いがない。

(三) 慰謝料(反訴請求額金二五〇万円)

被告フジ子は本件事故により、前記の傷害を負い、また出血性シヨツクを生じて大分中村病院に平成三年六月二四日から同年九月一四日までの八三日間入院し、同年一〇月二日から平成四年四月一四日まで通院治療を行つたことが認められる(甲第二号証の七、八、乙第二号証)。また小腸破裂等の治療により小腸の短縮が生じたことも認められ(被告春記本人(第一回))、これは本件においては慰謝料の算定において斟酌すべきものと考えられる。

原告らは、右慰謝料は一三〇万円が相当である旨主張するが、右の事情、傷害の程度、治療期間等を総合考慮すると右慰謝料は、二〇〇万円と認めるのが相当である。

(三) 休業補償金(反訴請求額金七〇万六九三〇円)当事者間に争いがない。

(四) 通院交通費(反訴請求額金二万二一〇〇円)

被告フジ子は、平成三年一〇月二日から平成四年四月一四日まで少なくとも一三回(乙第一九号証)は、バス、JR、タクシーを乗り継いであるいは被告春記運転の自家用車で通院をしていることが認められ、彼告フジ子の傷害の程度等を考えると一回の通院交通費は一七〇〇円と認めるのが相当であるから、合計二万二一〇〇円を損害額として認める。

二  過失相殺について

1  証拠(甲第二号証の一ないし三、六、九、一二ないし一四、第六号証の一ないし三、第七号証の一ないし六、乙第一〇号証の一ないし四、第一 一号証の一ないし三、第一二号証、第一四号証、第一六号証の一ないし六、第一七号証の一ないし三、証人佐藤重信、被告春記本人(第一回、第二回)、原告高倉本人)によれは、次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故現場は湯布院・玖珠方面間の国道二一〇号線上であるが、同国道は湯布院高速インターチエンジ入口交差点付近において、原告高倉の進行方向の車両通行帯に直進車線と右折車線の二車線がもうけられており、他方被告春記の進行方向の車両通行帯は一車線となつている。

また、本件道路の最高速度は時速五〇キロメートルに制限されているが、原告高倉、被告春記とも前方の見通しは良好である。

(二) 原告高倉は、先行しているタンクローリー車に追従する形で時速約五〇キロメートルで玖珠方面から湯布院方面に向け進行してきたのち、湯布院高速インターチエンジ入口方向に進行するため、直進車線から右折車線に入り時速約三〇キロメートルまで減速の上、右折の方向指示器を点灯し、青色の対面信号の表示に従つて本件交差点に進入し右折を開始したが、右タンクローリー車や信号の表示に気を取られ、対向車線上の直進車の動静を確認しなかつたため、右折を開始して初めて、対向車線を直進してくる被害車両に気付き急制動をかけたが間にあわず、被害車両の前部と加害車両の左前部とが衝突するに至つた。

(三) 他方、被告春記は、被告フジ子を病院に連れていくため、湯布院方面から玖珠方面に向けて時速約五〇キロメートルで進行し、青色の対面信号に従つて本件事故現場の交差点に進入した。その際に同所交差点を右折してくる原告高倉運転の車両に気付き、急制動をかけハンドルを左に転把したが、前記のとおり原告高倉車と衝突するに至つた。

2  交差点において車両が右折する場合には、直進車の進行を妨害してはならないのであるから(道路交通法三七条参照)、右折車としては対向車線上の直進車の動静に注意を払い、徐行して安全に右折進行すべき注意義務があるところ、右衝突まで原告高倉は、右タンクローリー車等に気をとられ、対向車の動静に全く注意を払わずに、減速したとはいえなお時速約三〇キロメートルで右折進行した過失がある上に、車両が交差点を通行する場合には、交差点の中心の直近の内側ないし標識等により指定された部分を通行しなければならないところ(同法三四条二項参照)、右通行すべき部分をこえて右折していることが認められるのであつて、本件事故の原因の大半は原告高倉の右過失にあるものと考えられる。

なお、原告高倉車に同乗していた証人佐藤重信は、同車の右折方法に格別不当な点はなかつた旨証言し(26項、28項、62項)、また原告らも当初は原告高倉車の早廻り右折を認めながら後にこれを撤回し、衝突時、危険を感じてハンドルを右に転把したため、通行すべき部分をこえているような形になつた旨供述している(原告高倉本人22項、84項)のであるが、同時に実況見分調書(甲第二号証の一)添付図面に示された車両の進行状況については格別誤りはないとも供述し、甲第二号証の一三、一四においても右図面が正確であることを前提に供述しているのであつて、右図面によれば、やはり原告高倉は本来通行すべき部分をこえて右折していたものといわざるを得ない。

3  一方、被告春記についても前方注視義務があるというべきところ、同人は、原告高倉車の前を先行していたタンクローリー車に気が付いていないだけでなく、原告高倉車が直進車線から右折車線へと進路を変更しているにもかかわらず、これに本件事故直前まで気がつかず、原告高倉車が方向指示器を点滅させていたかどうかについても見ていない(甲第二号証の三、なお被告春記は、乙第一二号証(陳述書)において、原告高倉車両の方向指示器は出ていなかつた旨明言しているものの、被告春記本人尋問(第一回)においては、甲第二号証の三同様、方向指示器は見ていないと供述し、ただ、点滅していれば分かると思うと供述している(同68項)。)のであるから、被告春記にも前方対向車の動静を注視することなく、漫然と進行した過失があるといわざるを得ない。

もつとも被告らは、本件交差点に進入後、原告高倉車が、いきなり直進車線から右折車線をとびこえて被告側車線に進入してきたのであつて、被告春記はこれを発見し急制動をかけるとともにハンドルを左に切り車両を完全に停止させたところに原告高倉車が突つ込んできたものであるとして、被告側には過失は一切ない旨主張し、また本件事故現場に関する図面(甲第二号証の一添付の図面、甲第二号証の二添付の図面)及び写真等(甲第二号証の一添付のもの、乙第一六号証の一ないし六はこれを接写したもの)はいずれも虚偽ないし修正されたもので正確ではない旨主張する。

しかしながら、被告春記は、前記のように対向車の動静に充分な注意を払つていたとは思われない上に、原告高倉は当初から湯布院高速インターチエンジ方面に向けて右折することを予定していたこと(原告高倉本人3項)、原告高倉は本件事故現場に至るまでずつとタンクローリー車の後を追従することを余儀なくされており(証人佐藤重信8項)、本件事故現場交差点を右折することで、同所を直進するタンクローリー車からようやく離脱できることとなつたことを考えると、原告高倉車が右折車線が始まるにもかかわらず直進車線から車線を変更せず、本件事故現場交差点直前に至つてはじめて直進車線から右折車線をこえ被告春記側車線に進入したとは考え難く、また被告春記が主張する同人が危険を感じて急制動をかけた地点と被告春記車が衝突した地点とを前提としても(乙第一五号証)、右両地点間の距離は十数メートルにすぎず、同車が残したスリツプ痕も約二メートルにすぎないことを考えると、本件事故の態様が前記被告ら主張のようなものであつたとは思われない。

4  これらの諸事情を考慮すると、本件事故における過失の割合は原告側が九〇パーセント、被告側が一〇パーセントと認めるのが相当である。

三  弁護士費用(反訴請求額・被告春記二〇万円、被告フジ子三〇万円)

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、被告春記につき一五万円、被告フジ子につき二〇万円と認めるのが相当である。

四  以上によれば、被告春記が原告らに対して請求し得る損害は、各自一九〇万三九五一円(一円未満切捨て)、被告フジ子が原告らに対して請求し得る損害は、各自二四六万六〇七一円である。

第四結論

以上のとおりであるから、原告ら及び被告らの本訴及び反訴請求は主文第一、第二項記載の限度で理由があるが、その余は失当であるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 森冨義明)

(別紙) 目録

(一) 日時 平成三年六月二四日午前八時一〇分ころ

(二) 場所 大分県大分郡湯布院町大字川北一五八二番地の三先路上

(三) 態様等 被告辰本春記が被告辰本フジ子を同乗し、普通乗用自動車(大分五七た一九一一)を運転して前記日時に湯布院方面から玖珠方面に向け前記場所の湯布院高速インターチエンジ入口交差点を直進中、同車に玖珠方面から湯布院高速インターチエンジ方面に向け右折進行しようとした原告高倉護宏運転の普通乗用自動車車(大分五七つ八八三四、原告大分トヨペツト株式会社所有のもの)が衝突した。

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